お弁当食べましょv






今日はめずらしく、俺のほうが長谷川に呼ばれて、保健室にやって来た。
―――ガラガラ・・・

「先生、今日は何か用事ですか?」
俺が保健室に入っていくと、長谷川はこちらに気付いてぱっと立ち上がる。
「あっ!久我くん!待ってたんだよぉ〜」
そう言って長谷川は、パタパタと俺に近づいてくる。
(今日はやけに機嫌がいいな・・・。)
俺がそんな事を考えていると、長谷川は手に持っていた“モノ”をにゅっと俺の目の前に差し出した。
「?なんですか、先生?」
「あのね、お弁当作ってきたの。久我くんいつもパンでしょ?」
「まあ・・・。でもどうして急に?」

俺はどうして長谷川がそんな事を言い出したのか考えた。
そして思い浮かぶ事がひとつだけあった。
「・・・もしかして、昨日のことで、ですか?」
長谷川は顔をぽっと赤く染めた。
「う、う〜。そ、そうなんだけど・・・。昨日の事は忘れて・・・っ」
(そうだ。思い出した。)
昨日は悪ふざけした日下部が、長谷川に酒を飲ませて、ベロベロになった長谷川を俺が送り届けたんだった。
ついでに何も知らない水野が、勘違いして俺にローキックをくらわせたんだった・・・。

「だから・・・今日は腕によりをかけてお弁当作ったの・・・」
そう言って長谷川は、上目遣いに俺を見た。
(はぁ・・・。そんな目で見ないで欲しい・・・。)
そんな風に考えながら、仕方なく、俺は長谷川から弁当を受け取る。
弁当を貰える事は確かに有難かったし。

「どうせならどっか外で一緒に食べよう!」
長谷川がいきなりそんな事を提案した。
「え・・・いいですけど・・・」
というか、願ってもない申し出だった。
おれは軽い足取りで歩く長谷川の後をついて行った。



「うん!ここで食べよ!」
そう言うと長谷川は芝生の上に腰をおろした。

俺たちがやってきたのは校舎裏の芝生。
誰かいても良さそうな場所だったが、意外と他に人はいなかった。
(まぁそのほうがいいけど)
俺がそんな事を思っているなんて露知らず、長谷川は嬉しそうに弁当を広げ始めた。
「今日のはねぇ、すっごい自信作なのv」
長谷川が料理が得意な事は知っていたが、本当に凝ったものを作っている。
俺が自信作だと言うその弁当に目を奪われていると、長谷川は嬉しそうに色々と小皿に取り分け始める。

「パンもウチで焼いたの。それからこの苺ジャムもウチの苺で・・・」
「そう言えば前にもジャムを貰ったような・・・」
温かな日差しの中、そんな会話をしながら、俺たちのランチタイムは始まった。



作った料理の話を聞いていると、何から何まで手作りだと言う事に驚いた。
(もし結婚したら、肥えるだろうな。)
なんてぼんやり考えてみたりした。
でもすぐ次の瞬間、“結婚”なんて単語を思い浮かべた自分が恥ずかしくなった。
(オンナノコでもあるまいし・・・。)
(でも、長谷川なんかはそういう事考えたりするのかもな。)

そんな事をずっと考えてると、じーっとこっちを見ている長谷川の視線に気付いた。
「? なんですか、先生」
「あ、あのね。久我くん、ほっぺにおべんと付いてるよ?」
「え・・・」
とっさに自分の頬を触る。
でも、どこについているのかわからない。
「あ!ちがう!もうちょっと!・・・とってあげるっ!」
そういうと長谷川の手が、俺の顔に触れた。
その感覚にドクンっと大きく心臓が高鳴るのを感じた。
「・・・・・・」
「ん?どうしたの、久我くん?」
長谷川は黙ってしまった俺を見て、きょとんとした。
(この人は・・・、天然でこういう事するのが怖いな・・・。)

いったん意識し始めてしまうと、どうにも止める事が出来ない。
トクン、トクン、と心臓が脈を打つペースがだんだん速まっていく。

幸いここに他に人はいない。
俺は長谷川に近づけるチャンスを探していた。

あいかわらず返事のない俺を長谷川は不思議そうに見つめる。
視線がまるで絡みつくようだ。

このままきっかけがなければ何もなくてよい、と考えた。
が、俺はとうとうきっかけを見つけてしまった。

「先生・・・」
「なぁに?久我くん?」
無防備な笑顔が向けられると、想いはとうとう止められなくなってしまった。
「くち、に・・・」
「?」
「ジャムがついてます」
「えっ!?ホント?」
俺の言葉を聞いて、すぐに長谷川は自分の唇を舐めようとしたが、俺は制止するように長谷川の腕をぐっと自分の方に引き寄せた。
「さっきのお礼に、俺がとってあげますよ」
俺はそう言うと、次の瞬間、自分の唇を長谷川の唇に重ねていた。
「ん・・・っ!」
長谷川が小さく声を上げる。
そして、長谷川の体がぴくっと硬くなるのを腕の中で感じた。
怖がらせてはいけないと思って、俺はすぐに唇を離した。

同時にほうっとひとつ息を洩らす。
「・・・甘い・・・」
俺は自然にそんなことを呟いてしまった。
すると長谷川は、ぼっ・・・と、まるで火がついたように顔を赤らめた。
(お・・・っ)
そんな反応をされると、ウズウズとした衝動にかられてしまう。


しかしその時。

キーンコーンカーンコーン・・・。

無情にも、昼休みを終える予鈴が鳴ってしまった。
その時、俺も長谷川も現実に引き戻された。
「あ・・・お弁当片さなくちゃ・・・」
長谷川はまるで何もなかったかのように、片づけを始めてしまった。
そんな様子を見ていると、妙に肩の力が抜けてきてしまった。

「俺も手伝います」
そう言って、俺も弁当箱の方へ手を伸ばす。
その手が長谷川の手とほんの少しだけ触れた。
その瞬間、飛び跳ねるくらいのいきおいで長谷川がばっと手を引いた。
「あっ・・・///」
「・・・っ!?」
俺が呆気にとられていると、長谷川は急にモジモジとし始めた。
「あ・・・あの・・。久我くん・・・。あのね・・・あの・・・」
どうもはっきりしない。
(まぁこの人がヘンなのはいつものことだしな・・・。)
そんな風に思っていると、長谷川が潤んだ瞳で見つめてきた。
その瞳に、またドキっとしてしまった自分がいた。

そして、長谷川の言葉が続く。

「わ、私・・・、その・・・キス、嬉しかったよ」
その言葉を聞いた途端、頭が真っ白になった・・・。




そのあとの午後の授業は、はっきりいって全然記憶になかった―――。


― FIN ―



−あとがき−
久我くん一人称SSです。この感じってテキストタイプのギャルゲーに似てません??(←似てないって?)
パロなので多少キャラ違っててもそこはご愛嬌ってことでカンベンしてやってください・・・。
でも、甘〜いお話って書くの恥ずかしいけど面白いですね。ちーちゃん視点の方が甘甘感は増すかもしれません。
「Honey」って、創作してもあまり人目に触れることないんじゃ?と思うと気楽な反面、少し淋しくもありますね・・・(せつない・・・)。


2002/08/20


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